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Posted by MA2

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HIDDEN CHAMPION #29のLIBRARY紹介ページに書いたちょっとまじめな文章をこちらにも掲載します。長文ですが。10年経つの早いなー。

 2003年当時、アパレルブランドのデザインや企画に携わっていた自分は、世界中で行われているアートショーやイベントなどを、時折情報として知る機会があった。それらを新鮮に感じていたのは、もしかしたら自分がただ無知なだけだったのかもしれない。しかし、そのどれもが日本のメディアで紹介される事はほとんど無かった。知り合いのいる雑誌媒体などに、面白い情報があるから掲載して欲しいという話をしたこともあった。しかし、それらは既に知られている大物などではないし、どちらかといえばアンダーグラウンドなものが多かった。一般的に知られていない人物やイベントを取り上げたとしても、読者が求めていることでは無いかもしれないし、それによって売上部数が飛躍的に伸びることがないのは目に見えていて、メリットを感じてもらえることは少なかった。同時に、それらをこちらの意思で掲載してもらうためにはそれなりの費用が必要だった。当然といってしまえばそれまでだった。しかし、自分の知った情報----少なくとも自分が素晴らしいと思ったこと----を誰かに伝えたかった。興味深い出来事が世界の至る所で起こっている事を、自分と同じようにそれまで知らなかった人へ知らせたかった。そこで当時勤務する会社に掛け合った。情報を発信するための雑誌を作らせて欲しいと。

 アパレルを扱う企業から雑誌を出すという事はそんなに容易なことでもなく、まして頻繁にある事でもないと思う。もちろん自分で雑誌を作った事など過去に1度も無かった。しかし運良く、今思えば本当に運だけが良く、出す事が出来た。当時の上司に後で聞いた話だと、しつこいからOKしたが、絶対に1号目も出ないだろうし続かないと思っていた。ということだった。しかし1号目を出せばこちらのもので、それなりの評価を----おそらく自分の耳に入ってくる範囲内程度のことだが----得る事が出来て、2号目、3号目と続くようになった。そして、あまり他の雑誌で紹介されていない人達や、そうでなくても、取り上げられることの少ないパーソナルな部分の取材を主に行っていった。しかし、今思えば自己満足的な内容がほとんどで、ただ作るという行為が楽しかっただけかもしれない。

 年2回のペースで11冊を発行し、5年の月日が過ぎたとき、所属していた会社と海外ブランドとの契約が終わり、それまでの形態でHIDDEN CHAMPIONを発行する事が出来なくなってしまった。しかし、その頃には5年続けたという実績もあり、それなりに多くの反響を貰うようになっていた。このまま止めるわけにはいかないと思った。当然止めたくないとも思った。そして会社に相談し、HIDDEN CHAMPIONを一つの独立した媒体にするために、会社を辞めると同時に持ち出す事にした。

 しかし、継続して発行するためにはそれなりの費用がかかる。さらに自分で費用をなんとか捻出したとしても、フリーマガジンとしてやっているからには売り上げは無い。生活出来るかどうかも分からない。間違った選択をしたのではないかという不安や葛藤が多くあったのを今でも覚えている。さらに、その2008年から2009年頃にはウェブマガジンなどが次々と出始め、紙媒体業界全体が勢いを失いつつあるような感覚さえあった。広告を出稿する側に関しても、紙媒体というものに対して、以前よりも消極的になっていたように思えた。ただそれでも、自分と同じように、面白いと感じている伝えたい情報を、既存のメディアだけでは出し切れていない企業やブランドがあると感じていた。

 戦略的な裏付けみたいなものを持っていたわけでも無いし、統計学的なメリットを提案出来たわけでもない。しかし、熱意が通じたのか、1社2社と賛同してくれるブランドがあった。そのブランドには今でも感謝している。また、多くのブランドが関わってくれる事で、それまで以上に掲載する内容の幅を拡げる事が出来るようになり、作り手としてもさらに面白くなっていった。

 アメリカ一辺倒で、ヨーロッパのスケーターなどの情報があまり無いなか、スウェーデンの田舎町のポンタス・アルブを紹介したり、米国から出国出来なかったDJ HARVEYが国外出国可能となった時にもいち早く取材した。今では日本でも多く知られているが、国際カンファレンスTEDでストリートアーティストとして初めて選ばれたJRも取材した。街中でステッカーを貼りまくるBNEが貧困救済の団体を始めた時も、他のどのメディアも取材しそうにないから取材した。スケートデッキを素材として使う日本人アーティストHAROSHIが、アメリカで世界中が注目するエキシビションを開催した時も取材した。そしてそのどれもがHIDDEN CHAMPION以外の日本のメディアでは当時一切掲載されていない情報だった。すべて自然に湧いた興味として掲載したが、そういう事が重なり、勝手ながらHIDDEN CHAMPIONの役割というものを感じさせられる事も何度かあった。

 それからまた5年が経ち、1号目を出した時から合わせると2013年で10年が経ったことになる。今では、日本全国で500店舗以上ものネットワークを持ち、海外では、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ロンドン、ベルリン、パリ、ミラノ、シドニー、メルボルン、台湾など多くの国に届けている。海外メディアから、気になる日本のメディアとして取り上げられる事も何度かあった。自分が想像していた以上の事が起こってきた。しかし、元々メインストリームではなくサブ的なカルチャーを取り上げるという性質上、大きな影響力は持っていないかもしれないし、今後も無いかもしれない。さらに、サポートしてくれているブランドからも、販売促進という意味ではそれほど即効性を期待していないとも言われる。モノを売ることが主目的のメディアで無いことはこちらも知っている。ただ、嬉しいのは、ブランドを築き上げる上で必要な、神髄ともいえる姿勢やバックグラウンドを伝えるためには、適しているとも言われる。そして、その部分こそが自分が伝えたかったことであり、見せかけや一過性のハイプではなく、ブランドとしての姿勢や活動を世界中から集めたかったのだ。さらに、東京発信というだけで同じ人物を毎号登場させるいわゆる東京ローカル誌になりたいわけでもない。ただ単に、"HIDDEN CHAMPION=隠れたチャンピオン"というコンセプトを作ったのであって、関わってくれる人たちが伝えたいと思う事や、世代を渡って残したいと思う文化を、掲載するためのフォーラムであれば良いと思っている。

 自分自身は、アーティストでも無いし、ミュージシャンでもスケーターでもBMXライダーでも無い。初対面の人には、それらのどれもやっていない事にがっかりされた事さえある。ただ、自分にとってはその全てに興味がある。さらに言うと、一つの道を選んで夢中になっている人物自体に興味がある。なぜ、それほど魅せられたのか。そこが知りたい。ただ、それらの人たちは、ジャンルは違えど、発言する内容には共通する点がいくつもある。一つの事を成し遂げるためには、なにをするにしても"その人"であるべき独自性が必要なのだ。誰にとっても壁は必然としてある。しかし、それを成し遂げた人たち、そして成し遂げようとしている人たちには感動を覚えるほどの魅力がある。そしてその力が、さらに多くの人たちを惹き付けるのだと思う。ごく自然に、そして圧倒的に。

 2013年8月。HIDDEN CHAMPIONは10周年を迎える。それを記念して、今までの10年間で掲載させてもらったアーティストやフォトグラファー達の作品が一堂に会するという夢のようなエキシビションを開催出来ることになった。これだけのメンツの作品が同じ場所に集まるということは、そうそう無いことだと思う。この企画に賛同してくれた企業やブランドに心からお礼を言いたい。そして参加してくれるアーティスト達にも。

 ここからは、2013年8月2日から8月5日まで開催する「HIDDEN CHAMPION 10TH ANNIVERSARY ART EXHIBITION - LIBRARY-」に参加してくれるアーティスト達を改めて紹介したい。繰り返すように言ってしまうが、これらのアーティスト達の作品が、同じ日に同じ場所に集まる事は、世界中で2度と無いと断言したい。そして、その中で本当に気に入った作品があるならば、あなたの家に飾って欲しいと思う。アートを身近に感じることが出来るし、"なにか"良いインスピレーションをあなたが得ることが出来ると思うから。そして、"LIBRARY"に参加するアーティスト達は間違いなく素晴らしいアーティストであるから。

---- 松岡秀典(HIDDEN CHAMPION)

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