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Posted by @momomagazine

ベトナム、写真があまり撮れなかった一日目の話

ホーチミンからニャチャンまでの飛行機は、滑走路に入った時点で予定より一時間遅延してた。

宿泊先から送迎車が空港まで迎えに来ていた。そういえば、ベトナムの言葉は一言も覚えてこなかったなー。私の名前が書かれたプレートを指差すと、運転手は無表情で頷くだけ。時間は午後4時40分。宿泊先と交わしたメールでは、空港から車で1時間半って書いてあったのを思い出した。夕焼けの時間には、ギリギリ到着してるといいなぁぐらいに思っていた。

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緑の茂る小高い山々を西に見ながら、車は、なんとなくゆっくりと海沿いを北へ向かって進む。舗装された道路でも、よく見るとデコボコしていて、おまけに二人乗りや三人乗りのスクーターがたくさん並走しているのを、慎重に避けないと進めないみたいだった。

運転手は私一人を乗せて、ずーっと無言。一時間ほどノロノロと進むと、山ばっかりだった海沿いの道はカラフルなホテルが建ち並ぶエリアに変わっていた。車はそこで、宿泊先のスタッフらしい女性を一人、ピックアップした。

彼女は英語が少し話せた。助手席に座った彼女に、ここからあとどのぐらいで宿泊地に到着するか聞くと、1時間ぐらいと教えてくれた。お腹が空いているかと聞かれて、そういえば朝から何も食べていない...と言うと、ハンドバッグの中からビニール袋に入った焼き菓子を一つくれた。ココナッツケーキ。焼きたてのタルト生地がまだ温かくて、ココナッツの強い香りで口から鼻から頭の中までいっぱいになった。なんかほっとする。フランスの元植民地って、パンや焼き菓子がやたら美味しい。セネガルを思い出す。

ぼーっとしていたら、突然空が真っ黒になって、前が見えなくなるほどの強い雨が降り始めた。車はさらにスピードを落とす。おまじないみたいに流れる言葉で、運転手と女性スタッフが忙しなく会話していた。

真っ暗闇の中をカメラのフラッシュのような稲妻が光ると、一瞬だけ目の前に平らな田園風景が広がって見えた。ゆっくり進む車の横を、ビニール製の雨ガッパをヒラヒラさせて、スクーターに股がったずぶ濡れの人たちが何人も通り過ぎていく。よく見ると、もう道は舗装されていなかった。えーもう6時半過ぎてんじゃん...

道幅いっぱいに広がった水溜りを避けながら進む。もう方角が全然わからなくなっていた。ポツリポツリと、民家が連なった後、また田んぼに挟まれた狭い道を進んで、また先に民家が見えて、ってのをしばらく繰り返す。雨は止んでた。午後7時が過ぎた頃、運転手と女性スタッフの交わす言葉が、だんだん悪魔の呪文みたいに聞こえる。

もし拉致られて殺されるなら、どっかの都会の無機質な建物の影の、生臭くてドロドロなゴミ箱に捨てられて知らない人に発見されるのと、ベトナムの草むらに捨てられて、月の光る真夜中に見たこと無い動物のエサになるの、どっちがいいかなぁと考えたりしていた。

 

途中、曲がり角に広場が見えて、その中央に小さな木馬が円を描いて回っていた。木馬には、赤や緑の電球が取り付けられて、チカチカ光っていた。子供達が前後に体を揺らしながら股がっていて、大人が周りを歩き回りながら笑っていた。アメリカの田舎の、安っぽい移動式サーカスを思い出した。真っ暗闇の中に、不思議な色の光がチカチカしながら、ゆっくり回転している。夢の中みたい。

細い道の両サイドには、玄関の扉も窓も開けっ放しの小さな家が連なる。明かりに照らし出されるミントグリーンの壁、古びた木製の棚にはブラウン管のテレビ。扉からこちらを眺める小さな子供と、細長い体のお父さん。二人ともパンツ一丁。だれかの家の裏庭をひたすら突っ切るように車が進む。

突然目の前に現れた、重厚な金属製のゲートをくぐった所で車が止まった。 

もうあと15分で8時だった。ってか私、今どこにいるんだろう。

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運転手が無言のまま私のバックパックをヒラリと担いで暗闇に消えて行ってしまった。女性スタッフは、車から降りると私の手を取り、ほんのり明かりの見える方へ案内してくれた。

 「ディナーの場所はこちらですよ。」

湿った石畳の上を、女性スタッフの手をしっかり握って、ビーサンの底がすべらないように進む。潮の香りが濃くなっていく。明かりの灯る場所には、長方形の木製テーブルがあった。中央には赤いガラスの中にユラユラ揺れるキャンドルの炎と、シンプルな一人用のテーブルセット。暗闇の先に波の音が聞こえる。激しく砕ける音ではなくて、穏やかに細かく散るような音。目の前には、まだ見えない海が広がってるんだーとドキドキする。

キャンドルの小さな光だけで、一人前のディナー。テーブルの下、ヒザの辺りを温かい何かがモゾモゾしている。犬だ。2匹もいる。しばらく足の指先の匂いを嗅がれたあと、2匹はそれぞれ私のイスの左右に落ち着いていた。温かくねっとりしたポテトのポタージュスープ。ガーリックとオリーブオイルでソテーした大きなエビと、シャキシャキで甘いエンドウ豆、少しスパイシーなトマトソースが香るチキンのグリル。甘みの強いご飯。暗闇で食事をすると、香りも味がよくわかる。冷たい333の泡が喉から一気に流れ込む感じとかも。

食事の後、身体がものすごく重く感じた。

案内された部屋というか小屋は、天井が高く、大きなベッドは天蓋付きだった。シャワーを浴びてベッドに横たわって、天井の写真を撮っていたら、いつのまにか眠ってた。

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